【成功事例】中小製造業の完成品出荷倉庫、AMRで高密度保管と省人化を実現し物流コストを20%削減
株式会社〇〇工業 完成品出荷倉庫におけるAMR導入成功事例
導入企業の概要
本事例は、産業機械向けの精密部品を製造する、従業員数約300名の中小製造業である株式会社〇〇工業様(仮称)における物流革新の取り組みです。同社は、地方の工場敷地内に建つ完成品出荷倉庫から、多品種にわたる部品を全国の顧客へ出荷しています。出荷頻度は製品によって異なり、多品種少量から中量まで幅広い需要に対応しています。既存の倉庫は長年使用されており、保管スペースや作業効率の面で課題を抱えていました。
AMR導入前の課題
株式会社〇〇工業様がAMR導入を検討された背景には、主に以下の三つの大きな課題がありました。
第一に、保管スペースの限界です。創業以来使用してきた倉庫は、手作業での運用を前提とした従来の棚構成であり、限られたスペースでの保管効率が低い状況でした。製品ラインナップの増加に伴い、保管スペースは常にひっ迫しており、これ以上の事業拡大や製品増加に対応することが物理的に困難になっていました。新規に倉庫を建設するには莫大な投資が必要であり、現実的な選択肢ではありませんでした。
第二に、人手不足による作業負担の増大とコスト高です。特にピッキングや搬送作業は、経験や体力を要する業務であり、近年採用が難しくなっていました。既存人員への負担が増加し、残業時間の増加は人件費の高騰にも繋がっていました。
第三に、倉庫内の非効率な動線と作業効率の限界です。作業員が広範囲に移動してピッキングを行う必要があり、移動時間や探索時間が多く発生していました。これにより、出荷作業に時間がかかり、繁忙期には出荷遅延のリスクも抱えていました。
これらの課題は、同社の将来的な成長戦略において、物流部門がボトルネックとなる可能性を示唆していました。
導入したAMRとシステム
こうした課題に対し、株式会社〇〇工業様が導入したのは、棚搬送型AMR(Goods-to-Personシステム)と、これと連携する新しい倉庫管理システム(WMS)です。
このシステムでは、出荷指示に基づいてWMSがピッキング対象の棚を特定し、棚搬送型AMRに搬送指示を出します。AMRは指定された棚を自動で持ち上げ、ピッキング作業を行う作業ステーションまで運びます。作業員はステーションでAMRが運んできた棚から必要な部品を取り出すだけで済むため、倉庫内を広範囲に移動する必要がなくなります。
導入されたAMRは、既存倉庫の比較的狭い通路でもスムーズに走行できるようコンパクトなモデルが選定されました。また、導入されたWMSは、高層の棚配置にも対応しており、保管効率を最大化するための棚の動的な管理・最適化機能を備えていました。技術的な詳細は必要以上に追わず、このシステムが「既存倉庫での高密度保管を実現しつつ、作業員の移動をなくすことで効率化を図る」という課題解決に直結する点に着目しました。
導入プロセスと期間
AMR導入プロセスは、課題分析から始まり、複数のベンダーとの比較検討、システム設計、現場への丁寧な説明とトレーニング、そして段階的な導入という流れで進められました。
まず、既存倉庫の物理的な構造、保管物、出荷データを詳細に分析し、AMR導入による効果をシミュレーションしました。次に、複数のAMRベンダーから提案を受け、技術仕様だけでなく、サポート体制や既存WMSとの連携可否、そして最も重要視されたROI予測に基づいてベンダーを選定しました。
システム設計段階では、既存倉庫の形状や柱の位置などを考慮し、AMRの最適な走行ルートや棚配置を綿密に計画しました。現場作業員への十分な説明会を実施し、新しい作業フローやシステム操作に関するトレーニング期間を十分に確保しました。
導入は、まず一部のエリアで小規模に開始し、システムの安定稼働と現場の習熟度を確認しながら、徐々に適用範囲を拡大していきました。計画策定段階を含めると、全体の導入期間は約8ヶ月でした。
導入効果
AMR導入は、株式会社〇〇工業様の物流オペレーションに目覚ましい効果をもたらしました。最も特筆すべき点は、導入前の主要な課題であった保管効率の向上と省人化、それに伴うコスト削減です。
具体的には、以下の成果が得られました。
- 保管効率の向上: AMRによる棚の動的な再配置と、最小限の通路幅設計が可能になった結果、既存倉庫内での保管スペースを約30%拡大することに成功しました。これにより、新規倉庫建設という多額の投資を回避できました。
- 省人化と物流コスト削減: ピッキング・搬送作業に従事する人員を約40%削減できました。これにより、人手不足の解消に貢献するとともに、年間物流コストを約20%削減という具体的な成果に繋がりました。
- 生産性向上: 作業員の移動時間が大幅に削減されたことで、ピッキング効率が約50%向上しました。これにより、出荷までのリードタイムが短縮され、顧客満足度の向上にも寄与しました。
- 投資対効果(ROI): 初期投資額は数千万円規模となりましたが、年間物流コスト削減効果により、3年以内での投資回収が見込まれています。
- 作業環境改善: 重量物の搬送作業がAMRに置き換わったことで、作業員の肉体的な負担が軽減され、安全性が向上しました。
これらの数値は、AMR導入が単なる自動化ではなく、明確な経営効果をもたらしたことを示しています。
導入における課題と解決策
AMR導入は順調に進んだわけではなく、いくつかの課題も発生しました。
一つは、既存倉庫の独特な形状や構造にAMRの走行計画や棚配置を完全に適合させるための綿密な調整が必要だったことです。これに対しては、導入前にベンダーと共同で倉庫の徹底的なマッピングと、様々なシナリオに基づいたシミュレーションを繰り返し行うことで対応しました。
また、新しいテクノロジーであるAMRや新しい作業フローに対する現場作業員の不安や戸惑いも課題でした。これに対しては、導入前に経営層および推進チームから目的やメリットについて丁寧に説明会を実施し、導入決定後も実際の稼働前に十分な期間を設けてトレーニングを行いました。現場からのフィードバックを積極的に吸い上げ、システムや作業フローの改善に反映させることで、従業員の理解と協力を得ることができました。
初期のシステム連携において発生した細かいエラーについても、選定したベンダーとの密な連携体制を構築し、問題発生時には迅速な対応と調整を行うことで、大きな遅延なく解決していきました。
成功の要因・ポイント
本事例が成功した要因は複数ありますが、特に重要なポイントは以下の通りです。
まず、経営層が人手不足と保管スペースという喫緊の経営課題を明確に認識し、それに対する解決策としてAMR導入の可能性を真剣に検討したことです。単なる最新技術の導入ではなく、経営目標達成のための手段として位置付けたことが、導入判断の迅速化とプロジェクト推進の原動力となりました。
次に、既存倉庫の制約という難しさがある中で、同社の状況に最適な棚搬送型AMRを選定し、さらに高密度保管を実現するWMSと組み合わせて導入したことです。自社の課題を深く理解し、それに合致するソリューションを選択する視点が重要でした。
また、現場の理解と協力を得るためのコミュニケーションとトレーニングを疎かにしなかったことも成功の大きな要因です。新しいシステム導入には現場の協力が不可欠であり、導入後のスムーズな運用には現場の習熟度が大きく影響します。
最後に、導入後の継続的なサポートを含め、信頼できるベンダーを選定できたことも、トラブル発生時の迅速な対応や、システムを最大限に活用するための重要な要素でした。
今後の展望
株式会社〇〇工業様では、今回のAMR導入による成功を受けて、さらなる物流革新を目指しています。
将来的には、AMRの稼働エリアを倉庫内の他の区域にも拡大し、対象製品の種類を増やすことを検討しています。また、本事例で培ったノウハウを活かし、もし新規の倉庫を建設する機会があれば、設計段階からAMRによる自動化を前提としたレイアウトを検討する可能性もあります。
さらに、AMRやWMSから得られる様々な稼働データや在庫データを詳細に分析することで、より精密な需要予測に基づく在庫配置や、ピッキング作業のさらなる効率化、倉庫全体のパフォーマンス改善を図っていく計画です。
AMRは単なる搬送ツールとしてだけでなく、倉庫全体の最適化やデータ活用の起点として、同社の事業発展を支える重要な要素となることが期待されています。