【成功事例】書籍・メディア物流センター、AMR導入で多品種少量ピッキングと季節波動に対応し生産性向上
物流課題をAMRで克服 - 書籍・メディア専門物流会社の事例
本記事では、書籍、雑誌、CD、DVDなどを扱う物流専門会社が、AMR(自律走行搬送ロボット)を導入することで、多品種少量のピッキング負荷増大や季節波動への対応、そして人手不足といった複数の課題を解決し、物流センター全体の生産性向上を実現した成功事例をご紹介いたします。
導入企業の概要:株式会社ブックサポート(仮名)
株式会社ブックサポート様(仮名)は、創業30年を超える書籍・メディア専門の物流会社です。全国の出版社やメディア販売店、そして近年拡大が著しいEC事業者向けに、入出荷、保管、流通加工、返品処理といった幅広い物流サービスを提供しています。特に、関東地方にある同社の主要物流センターは、年間を通じて膨大なSKU(在庫管理単位)を扱い、日々変動するオーダー量に対応しています。
AMR導入前の課題
同社がAMR導入を検討するに至った背景には、いくつかの深刻な課題がありました。
- 多品種少量オーダーの増加とピッキング効率の低下: 近年のEC市場の拡大に伴い、個人顧客向けの小口・多品種少量オーダーが急増していました。これにより、作業員が広大な倉庫内を移動する距離が増大し、ピッキング作業の生産性が伸び悩み、身体的な負担も増加していました。
- 季節波動への対応困難とコスト増: 年末年始の商戦期や新学期シーズンなど、特定の時期に物量が大きく変動する季節波動が常態化していました。この波動に対応するため、繫忙期には多くの臨時作業員を確保する必要がありましたが、十分な人員を安定的に確保することが難しく、採用・教育コストも増大していました。
- 人手不足の深刻化: 物流業界全体で進む人手不足は同社も例外ではなく、特にピッキングのような経験を要する作業の担い手不足は、今後の事業拡大における大きな足枷となる懸念がありました。
- 既存スペースの有効活用: 既存の倉庫スペースを最大限に活用し、保管効率を維持しながら処理能力を向上させる必要がありました。
これらの課題は、同社の労働コスト増加、サービスレベルの維持困難、そして将来的な成長への阻害要因となっていました。
導入したAMRとシステム
同社が課題解決のために導入したのは、棚搬送型AMR(Goods to Person: GTP)と、それを制御する専用システム、そして既存の倉庫管理システム(WMS)との連携システムです。
棚搬送型AMRは、作業員が棚まで移動するのではなく、AMRが商品棚を作業ステーションまで搬送する方式です。これにより、作業員はステーションから動くことなく、AMRが運んできた棚から指示された商品をピッキングする作業に集中できます。
導入システムは以下の通りです。
- 棚搬送型AMR: 数十台のAMRが倉庫内を走行し、専用に設計された可動式の棚を搬送します。
- AMR制御システム: オーダー情報や在庫情報を基に、どのAMRがどの棚をどの作業ステーションに運ぶかを最適に判断・指示します。
- 作業指示システム: 作業ステーションに設置されたディスプレイなどに、ピッキングすべき商品の場所(棚のどの位置か)や数量を分かりやすく表示します。
- WMS連携システム: 既存のWMSからリアルタイムにオーダー情報、在庫情報、出荷指示などを受信し、AMR制御システムに連携します。ピッキング結果はWMSにフィードバックされます。
技術的な詳細よりも、このシステムが「作業員の移動時間をゼロにし、ピッキング作業自体に集中できる環境を提供すること」、そして「システム連携により、複雑なオーダー処理や在庫管理を自動化し、AMRの稼働を最大化すること」に焦点を当てて設計された点が、課題解決の鍵となりました。
導入プロセスと期間
AMRシステムの導入プロセスは、慎重かつ段階的に進められました。
- 課題と要件の定義: 社内の物流部門、IT部門、現場担当者が連携し、現状の課題、AMRに求める機能、既存システムとの連携要件などを詳細に定義しました。
- ベンダー選定とPoC(概念実証): 複数のAMRベンダーを比較検討し、棚搬送型AMRの導入実績が豊富で、既存システムとの連携にも柔軟に対応できるベンダーを選定。実際の倉庫環境に近い場所で小規模なPoCを実施し、想定される効果や現場での操作性を検証しました(期間:約3ヶ月)。
- システム設計と連携開発: PoCの結果を基に本格導入を決定。詳細なシステム設計、既存WMSとのAPI連携開発、ネットワーク環境の整備などを進めました。
- 現場トレーニングとテスト稼働: 導入エリアの作業員向けに、AMRシステムの使い方や安全に関する徹底したトレーニングを実施。小規模なエリアから段階的にシステムを稼働させ、実際の運用の中で発生する課題を洗い出し、改善を行いました。
- 本格稼働: 特定のピッキングエリア全体でAMRシステムを本格稼働。
企画検討から本格稼働まで、全体として約1年の期間を要しましたが、段階的なアプローチと現場との密な連携が、スムーズな導入成功に繋がりました。
導入効果
AMRシステム導入により、同物流センターは以下の具体的な効果を達成しました。
- ピッキング生産性の向上: ピッキング作業員の平均生産性は約35%向上しました。棚が作業員のもとに来るようになったことで、移動時間が削減され、1時間あたりに処理できるオーダー数が大幅に増加しました。
- 人手不足の解消と人員配置最適化: ピッキング作業に必要な人員数を、繫忙期を含めて約20%削減することが可能となりました。削減された人員は、検品や梱包、返品処理など、AMRが直接関与しない他の工程に再配置され、物流センター全体での人員効率が向上しました。
- コスト削減: 人件費の最適化に加え、繫忙期の臨時雇用抑制や教育コスト削減により、年間約5,000万円のコスト削減効果を見込んでいます。導入費用は3年以内での回収が見込める状況です(ROIの具体的な試算に基づく)。
- エラー率の低減: システムからの正確な作業指示と、作業員がピッキングに集中できる環境により、ヒューマンエラーによるピッキングミス率が約15%低減しました。これにより、誤出荷に伴う再配送コストや顧客満足度低下のリスクも抑制されました。
- 作業負担の軽減: 作業員の広範囲な移動が不要となり、身体的な負担が大幅に軽減されました。これにより、ベテラン作業員の継続的な就労が支援されるとともに、新規採用者も比較的短期間で一定の生産性を発揮できるようになりました。
- 季節波動への対応力強化: 事前予測に基づきAMRの稼働台数や作業ステーション数を柔軟に調整することで、繫忙期でも限られた人員とスペースで効率的に大量のオーダーを処理できるようになり、波動対応力が大きく向上しました。
これらの数値は、単なる効率化に留まらず、労働環境の改善、コスト構造の最適化、そして事業継続性の強化といった、経営層が重視する多角的な成果を示しています。
導入における課題と解決策
導入過程ではいくつかの課題に直面しましたが、適切な対策により乗り越えました。
- 既存WMSとの連携: 最も時間を要したのは、長年運用されてきた既存WMSと新しいAMR制御システムとのデータ連携でした。複雑なデータ構造やリアルタイム処理の要件に対し、ベンダーと密に連携し、複数の接続方式を検討した結果、安定したAPI連携を実現しました。
- 現場作業員の適応: 新しいシステムに対する現場作業員の不安や抵抗感を払拭することも重要でした。導入決定前からAMRの目的(作業負担軽減)を丁寧に説明し、PoC段階から一部の作業員に参加してもらい、実際の操作感や安全性についてフィードバックを得ました。段階的な導入と丁寧な操作トレーニングにより、徐々にシステムへの慣れと信頼が醸成されました。
- 安全対策: AMRが走行するエリアと人の動線の安全な分離は最優先事項でした。AMRに搭載された安全センサーの精度確認に加え、倉庫内の通路や作業エリアの明確な区画分け、警告表示の徹底、そして全作業員への安全教育を繰り返し実施しました。
これらの課題は、関係者間の継続的なコミュニケーション、ベンダーとの協力体制、そして何よりも現場の理解と協力によって克服されました。
成功の要因・ポイント
本事例の成功は、いくつかの要因が複合的に作用した結果と考えられます。
- 課題に対する最適なAMRタイプの選定: 多品種少量ピッキングという核となる課題に対し、作業員の移動をなくす棚搬送型AMR(GTP)が最も効果的であると早期に判断し、選定を進めたことが成功の基礎となりました。
- 既存システムとの「繋がる」前提での計画: 高度な自動化にはシステム連携が不可欠であるという認識が経営層・IT部門にあり、既存WMSとの連携性を重視したベンダー選定とシステム設計を行ったことが、スムーズなデータ連携とシステム全体の安定稼働に繋がりました。
- 経営層を含む全社的な合意形成: 経営層が物流自動化の重要性を理解し、必要な投資判断を迅速に行ったことに加え、導入計画段階から現場の意見を丁寧に聞き取り、システム導入の目的や効果を共有する努力を継続したことが、現場の抵抗感を和らげ、導入後のスムーズな運用を可能にしました。
- 段階的な導入と継続的な改善: 一度に大規模な導入を行うのではなく、PoCを経て小規模なエリアから段階的に導入し、運用しながら課題を改善していくアプローチを取ったことで、リスクを抑えつつ着実に成果を積み上げることができました。
これらの要素が組み合わさることで、単なるAMRの導入に終わらず、物流センター全体の生産性向上と競争力強化という大きな成果に繋がりました。
今後の展望
AMR導入に成功した同社は、今後も物流の革新を継続していく計画です。
まず、今回の成果を基に、他の物流拠点への棚搬送型AMR導入を順次拡大していく予定です。これにより、全社的な物流効率の底上げを目指します。
また、現在は主にピッキング工程で活用されているAMRの活用範囲を、入荷時の棚入れ作業や、出荷時の検品、梱包ラインへの搬送といった他の工程にも広げる可能性を検討しています。
さらに、収集した大量の物流データとAI技術を組み合わせることで、オーダーの傾向分析に基づいた在庫配置の最適化や、AMRの稼働計画のさらなる高精度化など、物流オペレーション全体のインテリジェンス化を進めていく方針です。
株式会社ブックサポート様は、AMRを単なる自動化ツールとしてではなく、変化する市場ニーズに対応し、持続的な成長を実現するための重要な戦略的ツールと位置づけ、今後の物流業界における競争優位性を確固たるものにしていくことでしょう。