【成功事例】アフターサービス向け物流、AMR導入で部品供給の即応性と在庫管理精度を向上
導入企業の概要
本事例は、大手産業機械メーカーの子会社である、物流サービス専門企業におけるAMR導入成功事例です。同社は親会社のアフターサービス部門と連携し、全国のサービス拠点や顧客へ迅速に交換部品を供給する物流網を担っています。今回AMRを導入したのは、国内の中核となるサービス部品倉庫(約5,000坪)です。この倉庫では、数十万点におよぶ膨大な種類の部品を取り扱っており、迅速かつ正確なピッキング・出荷が求められています。
AMR導入前の課題
サービス部品物流は、製品が稼働し続けるために不可欠であり、多種多様な部品を少量から、かつ迅速に供給する必要があります。しかし、AMR導入以前の同倉庫では、以下のような課題を抱えていました。
- 人手不足と熟練作業員への依存: 取り扱い部品の種類が多く、棚配置や形状が多様なため、ピッキング作業は高度な熟練度を要していました。経験豊富な作業員に負荷が集中し、採用難による人手不足が深刻化していました。
- ピッキング効率の限界: 作業員が広大な倉庫内を歩き回って部品を探し、ピッキングする「人搬送型」の作業形態では、移動時間が長く、一人あたりの生産性向上に限界がありました。
- 即応性の課題: 突発的な修理やメンテナンスに対応するため、迅速な部品出荷が求められますが、現行の作業プロセスでは指示を受けてから出荷までのリードタイム短縮が困難でした。
- 在庫管理精度の課題: 多品種少量で頻繁に出入りがあるため、手作業による管理では在庫差異が発生しやすく、棚卸しに多大な時間を要していました。
- スペース効率の低下: ピッキング作業員の移動に必要な通路幅が広く、保管スペースを十分に確保できない状況でした。
これらの課題は、将来的な事業拡大や顧客サービスレベルの維持・向上において大きな足かせとなることが懸念されていました。
導入したAMRとシステム
これらの課題を解決するため、同社は棚搬送型AMR(Goods-to-Personシステム)を導入しました。これは、作業員が固定されたピッキングステーションで待機し、AMRが指示された棚を作業員の前まで搬送してくる仕組みです。
導入されたシステム構成は以下の通りです。
- 棚搬送型AMR: 最適な走行ルートを自律的に判断し、指定された保管棚を搬送します。複数台のAMRを協調制御することで、倉庫内の搬送効率を最大化します。
- AMR制御システム: WMS(倉庫管理システム)からの指示を受け、最適なAMRへの作業割り当て、搬送ルート計算、タスク実行管理を行います。
- WMS(倉庫管理システム): 既存のWMSを改修し、AMR制御システムとの連携機能を強化しました。受注データに基づき、ピッキング指示を自動生成し、AMR制御システムに送信します。
- ピッキングステーション: 作業員がAMRから搬送されてきた棚から部品をピッキングするための専用ステーションです。画像認識システムによる部品形状の照合や、重量センサーによる検品機能を備え、ピッキングミスを防止します。
このシステム連携により、「人が棚まで行く」のではなく「棚が人まで来る」という全く新しいピッキングプロセスが実現しました。
導入プロセスと期間
AMR導入プロジェクトは、約1年3ヶ月をかけて段階的に進められました。
- 計画・要件定義 (3ヶ月): 現状の課題とあるべき姿を詳細に分析し、AMR導入の目的、システム要件、対象エリア、期待効果などを定義しました。
- ベンダー選定・PoC (4ヶ月): 複数のAMRベンダーを比較検討し、実際の倉庫環境に近い状況でAMRの動作、システム連携、現場での作業フローなどを検証するPoC(概念実証)を実施しました。
- システム設計・導入・テスト (6ヶ月): 選定したベンダーと詳細設計を進め、WMS改修、AMR制御システムの構築、倉庫内のレイアウト変更(AMR走行エリアの整備、ピッキングステーション設置)、AMR本体の設置、システム連携テスト、運用テストを実施しました。
- 段階的な稼働開始: 一部のピッキングエリアからAMRシステムでの稼働を開始し、現場の習熟度やシステム安定性を見ながら、対象エリアを順次拡大していきました。
PoCを含む事前の検証を丁寧に行い、現場の意見を取り入れながら段階的に進めたことが、その後のスムーズな本格稼働に繋がりました。
導入効果
AMR導入は、同社のサービス部品物流に目覚ましい効果をもたらしました。特に、読者ペルソナである物流会社の役員様が重視するであろう経営への影響は顕著です。
- ピッキング生産性の大幅向上: ピッキング作業員の一人あたり生産性が約2.5倍に向上しました。倉庫内を歩き回る時間が削減され、部品を探す負荷が軽減された結果です。
- 省人化と人員配置の最適化: ピッキング作業に必要な人員を約40%削減できました。削減された人員は、梱包、出荷検品、入荷処理など他の重要業務や、より付加価値の高い在庫管理業務に配置転換され、倉庫全体のオペレーションが強化されました。
- 出荷リードタイムの短縮: 受注から部品ピッキング、梱包、出荷準備までのプロセスが効率化され、平均出荷リードタイムを30%短縮できました。これにより、全国のサービス拠点や顧客への部品供給がより迅速化され、顧客満足度向上に貢献しています。
- 在庫管理精度向上: ピッキングステーションでの自動検品機能や、WMSとAMR制御システムの連携による正確な在庫連携により、出荷エラー率を50%削減しました。また、棚卸し作業にかかる時間も大幅に短縮されました。
- 倉庫スペースの有効活用: AMR走行エリアの通路幅を、人間が歩く必要があった従来の通路よりも狭く設計できたことで、保管スペースを約15%増加させることが可能となりました。
- 投資対効果 (ROI): これらの効果を総合的に評価した結果、導入後2.5年での投資回収を見込んでおり、経営的なメリットが明確になっています。
- 作業員負担の軽減: 倉庫内の移動距離が大幅に減少し、身体的な負担が軽減されたことで、従業員の満足度向上にも繋がっています。
導入における課題と解決策
AMR導入は順調に進みましたが、いくつかの課題も発生しました。
- 現場作業員の不安: 新しい技術への適応への不安や、雇用への懸念から、一部の現場作業員には抵抗感が見られました。これに対し、経営層およびプロジェクトチームは、AMR導入の目的(人手不足解消、作業負担軽減)や、削減人員の配置転換先などを丁寧に説明する説明会を繰り返し実施しました。また、PoC段階から現場担当者に積極的に参加してもらい、新しい作業フローへの理解を深めてもらうと共に、不安や懸念点を早期に吸い上げ、対策に反映しました。
- 既存WMSとの連携: 既存のWMSとAMR制御システムを円滑に連携させるためには、WMS側の機能改修が必要でした。これは事前に想定していましたが、想定以上の工数や調整が必要となりました。対策として、WMSベンダーとAMRベンダー、そして自社のIT部門・物流部門が密接に連携し、仕様のすり合わせやテストを徹底しました。
- 安全性確保と動線設計: 人とAMRが同じ空間で作業する場合の安全確保が重要課題でした。AMR稼働エリアを明確に区画し、センサーによる人検知、警告灯、注意喚起の掲示などを徹底しました。また、人の動線とAMRの動線を可能な限り分離するよう倉庫レイアウトを工夫しました。
成功の要因・ポイント
本事例が成功に至った主要な要因は以下の点に集約されます。
- 経営層の強力なリーダーシップと明確なビジョン: 将来的な人手不足を見据え、サービスレベルを維持・向上させるためには抜本的な物流改革が必要であるという経営層の危機感と意思決定が、プロジェクト推進の最大の原動力となりました。ROIだけでなく、持続可能な事業運営のための投資として位置づけられました。
- 既存システム(WMS)との連携を前提とした設計: AMR単体ではなく、基幹システムであるWMSとの連携をプロジェクトの初期段階から重視し、システム全体の最適化を目指した設計を行ったことが、スムーズなデータ連携と効率的な運用に繋がりました。
- 現場との密なコミュニケーションと協働: PoCへの現場参加や定期的な情報共有会を通じて、現場の懸念や改善要望を吸い上げ、それをシステム設計や運用ルールに反映させたことが、現場の納得と協力を得る上で非常に効果的でした。
- 業務特性に適したAMRタイプの選定: 多品種少量のピッキングが主体のサービス部品物流において、棚搬送型AMRが最も適していると判断し、その機能と効果を最大限に引き出すシステム構成を選択しました。
今後の展望
AMR導入によるピッキング作業の革新は、同社の物流オペレーションの柔軟性と生産性を飛躍的に向上させました。今後は、AMR導入エリアを段階的に拡大していく計画です。さらに、入庫・補充作業へのAMR活用や、AMRが収集する稼働データとWMSの在庫・出荷データを統合的に分析し、より高度な需要予測に基づく適正在庫管理、さらにはサプライチェーン全体の可視化・最適化にも繋げていくことを目指しています。本拠点で得られた知見を活かし、他の国内拠点や海外拠点への横展開も視野に入れています。AMRは単なる自動化ツールとしてだけでなく、将来的な物流ネットワーク全体の変革を推進する基盤として位置づけられています。