AMR導入成功事例ファイル

【成功事例】製造業の完成品倉庫、AMR導入でトレーサビリティと在庫精度を革新し品質管理を強化

Tags: AMR, 製造業, 完成品倉庫, トレーサビリティ, 在庫管理

AMR(自律走行搬送ロボット)は、物流・倉庫現場における人手不足の解消や作業効率の向上に貢献する技術として注目されています。その導入事例は多岐にわたりますが、今回は単なる搬送自動化に留まらず、製品の品質管理やトレーサビリティ強化といった、製造業にとって極めて重要な経営課題の解決にAMRが貢献した成功事例をご紹介します。

導入企業の概要

本事例の企業は、自動車部品や産業機械向けの高精度な精密部品を製造・販売する中堅メーカー、株式会社〇〇製作所様(仮称)です。国内外に製造拠点を持ち、多品種少量生産から量産品まで幅広く手掛けています。

今回AMRを導入されたのは、国内主力工場に隣接する完成品倉庫です。この倉庫では、製造ラインから搬送されてきた完成品(主にパレット単位、一部ケース単位)の一時保管、品質検査待ち、そして全国の顧客や物流拠点への出荷作業を行っていました。保管容量は約5,000パレット、出荷点数は日によって大きく変動しますが、平均で一日あたり約200パレット程度です。

AMR導入前の課題

株式会社〇〇製作所様がAMR導入を検討された背景には、複数の課題がありました。

第一に、人手不足と搬送作業の負荷増大です。完成品倉庫でのパレット搬送や棚入れ・棚出し作業はフォークリフトに依存していましたが、熟練オペレーターの確保が難しくなっており、また作業員の高齢化も進んでいました。特に、製造ラインからの完成品受け入れや出荷準備が集中する時間帯には、搬送作業がボトルネックとなり、現場に高い負荷がかかっていました。

第二に、在庫管理精度とトレーサビリティへの懸念です。製造業において、製品のロット管理や個体追跡は品質保証の根幹を成します。しかし、従来の運用では、パレットやケース単位での物理的な移動と、システム上の在庫情報のリアルタイム連携に遅延が生じることがあり、稀に棚卸差異が発生していました。また、万が一の品質トラブル発生時には、特定のロットや製造日の製品を迅速に特定し、追跡・回収する作業に多大な時間と労力がかかっていました。これは、経営層にとって無視できないリスクとなっていました。

第三に、限られたスペースと作業の安全性です。フォークリフトによる搬送が主であるため、作業通路の確保が必要であり、保管効率に限界がありました。また、人とフォークリフトが混在するエリアでは、常に接触事故のリスクが存在しました。

これらの課題は、今後の事業拡大や製品品質維持において、無視できない経営課題として認識されていました。

導入したAMRとシステム

これらの課題を解決するため、株式会社〇〇製作所様が導入したのは、パレット単位の搬送を得意とする自律走行搬送ロボット(AMR)と、既存のWMS(倉庫管理システム)、そして製造実行システム(MES)、品質トレーサビリティシステムとの連携基盤です。

導入されたAMRは、最大積載量1トンタイプのパレット搬送AMRが複数台です。これらは磁気テープやQRコードではなく、LiDARセンサーなどを用いたSLAM(自己位置推定とマッピング)技術により、倉庫内の環境地図を作成し自律走行します。特徴としては、狭い通路も走行可能であり、人や障害物を回避して最適なルートを動的に判断できる点が挙げられます。

システム連携が本事例の鍵となります。AMR管理システム(FMS)は、既存のWMS、MES、そして品質トレーサビリティシステムとAPI連携されました。 - MESからの連携: 製造完了した製品情報(品番、数量、製造ロット、製造日時など)がMESからWMS経由でFMSにリアルタイムに連携され、AMRによる倉庫への搬送指示に反映されます。 - WMSとの連携: AMRによる棚入れ・棚出し作業を通じて、WMS上の在庫情報(保管位置、数量、ロット情報)が常に最新の状態に保たれます。また、WMSからの出荷指示がFMSに連携され、AMRによる出荷ピッキング・搬送タスクとして実行されます。 - 品質トレーサビリティシステムとの連携: これが本事例の独自性です。AMRがパレットを搬送する際に、搭載されたセンサーや連携したゲートスキャンシステムにより、パレット単位だけでなく、必要に応じてケース単位のバーコードやRFID情報を読み取ります。この情報はWMSと品質トレーサビリティシステムに連携され、どのロットのどの製品が、いつ、どこからどこへ搬送され、どこに保管されているかがリアルタイムかつ高精度に記録されます。

これにより、単なる物の移動だけでなく、移動に伴う正確なトレーサビリティ情報の記録・更新が自動化されました。

導入プロセスと期間

AMR導入のプロセスは、以下のステップで進められました。

  1. 現状分析と目標設定(1ヶ月): 既存の完成品倉庫における搬送、在庫管理、トレーサビリティの課題を詳細に分析し、AMR導入によって達成すべき具体的な目標(例:在庫精度99%以上、追跡リードタイム10分以内、搬送人員〇%削減など)を設定しました。
  2. ベンダー選定とシステム設計(2ヶ月): 複数のAMRベンダーの中から、既存システムとの連携実績と、要求されるトレーサビリティ情報連携機能を持つベンダーを選定しました。WMS、MES、トレーサビリティシステムの各ベンダーも交え、システム全体の連携設計を詳細に行いました。
  3. 倉庫内環境整備とAMR設定(3ヶ月): AMRが安全かつ効率的に走行できるよう、倉庫内のレイアウトの一部見直しや、走行エリアの区画整備、充電ステーションの設置などを行いました。選定したAMRの初期設定、倉庫地図作成、走行ルート最適化を実施しました。
  4. システム連携開発とテスト(4ヶ月): 各システム(WMS, MES, トレーサビリティシステム, FMS)間の連携インターフェース開発と、綿密な連携テスト、シナリオテストを実施しました。特にトレーサビリティ情報の正確な連携には時間をかけました。
  5. 段階的導入と運用トレーニング(2ヶ月): まずは特定のエリア、特定の製品群を対象にAMR運用を開始し、効果検証と課題抽出を行いました。並行して、現場オペレーター向けの操作・管理トレーニングを実施しました。
  6. 本格稼働と継続的な改善(〜現在): 段階的導入で得られた知見を活かし、対象エリアを拡大し本格稼働に至りました。現在も、収集されるデータを基に、AMRの稼働率向上やタスク最適化などの改善活動を継続されています。

構想段階から本格稼働まで、全体で約12ヶ月の期間を要しました。

導入効果

AMR導入により、株式会社〇〇製作所様は当初の目標を大きく上回る成果を達成されました。

最も顕著な効果は、トレーサビリティの劇的な向上と在庫管理精度の極限化です。AMRによる搬送と同時に正確なロット・個体情報の記録が自動化された結果、手作業による入力ミスや確認漏れがほぼゼロになりました。これにより、棚卸差異率は導入前の0.5%以下から、ほぼゼロに近い0.02%以下に低減しました。また、製品の追跡にかかるリードタイムは、従来の平均3時間からわずか5〜10分に短縮されました。特定のロットが現在どこに保管されているか、いつ出荷されたかなどが、システム上で瞬時に確認できるようになり、万が一のリコール発生時における影響範囲の特定と回収手配を迅速に行える体制が構築されました。

また、当初の課題であった人手不足に関しても効果が現れています。パレット搬送に関わる作業員の約40%を、他の検品や梱包、出荷準備といった付加価値の高い業務に再配置することが可能となり、限られた人員をより有効に活用できるようになりました。

その他にも、以下のような効果が得られています。

導入における課題と解決策

導入プロセスにおいては、いくつかの課題に直面しました。

最も大きな課題は、既存のWMS、MES、品質トレーサビリティシステムという複数の基幹システムと、AMR管理システムとの複雑な連携でした。各システムのデータ構造や連携仕様が異なるため、スムーズな情報連携を実現するための設計と開発に時間を要しました。これに対しては、各システムベンダーとAMRベンダーが緊密に連携し、データ連携仕様を綿密に調整することで対応しました。また、本稼働前に十分な連携テストと、様々なシナリオを想定したシミュレーションを行うことで、実運用でのトラブルリスクを最小限に抑えました。

次に、現場オペレーターのAMRに対する慣れと運用ルールの浸透です。フォークリフトによる手作業からAMRによる自動搬送に切り替わることで、作業内容や動線が変化するため、現場の戸惑いが生じました。これに対しては、導入前からAMRの必要性や導入効果について丁寧に説明会を実施し、導入後も実際の操作トレーニングに加え、AMRとの協働方法やトラブル発生時の対応手順などをまとめたマニュアルを整備し、繰り返し教育を行うことで解決を図りました。また、AMR導入によって搬送業務から解放された人員を、他の付加価値の高い業務へ再配置することで、現場全体の士気向上に繋げました。

成功の要因・ポイント

本事例が成功した要因は、以下の点が挙げられます。

今後の展望

株式会社〇〇製作所様では、AMR導入による完成品倉庫での成功を基に、今後のさらなる物流・製造プロセス革新を目指されています。

まずは、AMR導入エリアの拡大を検討されています。現在は完成品倉庫の一部で運用されていますが、対象となる製品群や保管エリアを広げ、AMRによる自動搬送の範囲を拡大していく計画です。

また、将来的には、完成品倉庫と製造ラインとの連携をさらに強化し、製造完了から出荷に至るまでのプロセス全体の自動化・効率化を進めたいと考えています。例えば、製造ラインからの完成品受け入れを完全にAMRに任せたり、特定の顧客向け製品のパレタイズ作業後に自動でAMRが出荷エリアへ搬送したりといった、より高度な連携の実現を目指されています。

さらに、今回の事例で確立されたトレーサビリティシステムとの連携基盤を活かし、原材料倉庫や仕掛品倉庫における在庫管理や搬送にもAMRの導入を検討することで、製造プロセス全体のトレーサビリティと在庫管理精度を高め、サプライチェーン全体の可視化と効率化を図っていく方針です。

本事例は、AMRが単なる搬送自動化ツールに留まらず、製造業の根幹である品質管理やトレーサビリティといった経営課題の解決にも貢献できる可能性を示しています。物流部門だけでなく、製造、品質保証、情報システムといった関連部門全体を巻き込み、具体的な目標設定と周到な計画のもとで導入を進めることが、AMR導入成功の重要な鍵となると言えるでしょう。