【成功事例】機械部品卸売業、狭小エリア物流センターでAMR導入によりピッキング効率35%向上と省人化を実現
物流・倉庫の革新を志向する企業の皆様、本日は機械部品卸売業におけるAMR導入の成功事例をご紹介いたします。特に、既存の物流センターが抱える狭小なスペースや構造上の制約に対し、AMRがどのように課題を解決し、経営に貢献したのかに焦点を当てます。
導入企業の概要
今回ご紹介する事例は、国内有数の機械部品専門卸売業であるA社の物流センターです。A社は長年にわたり、多岐にわたる機械部品を取り扱い、全国の顧客に供給しています。対象となる物流センターは、都市部近郊に位置し、高い需要に応えるため稼働していますが、開設から時間が経過しており、近年の取扱量の増加や多品種少量出荷の傾向に対し、施設の物理的な制約が顕著になっていました。特に、棚が密集した狭い通路や多層構造が、作業効率化の大きな妨げとなっていました。
AMR導入前の課題
A社の物流センターでは、以下のような課題に直面していました。
- 深刻化する人手不足と労働コストの増加: 特にピッキング作業を担う人材の確保が困難であり、求人コストや教育コストが増加していました。加えて、狭いエリアでの作業は身体的な負担も大きく、作業員の定着率低下の一因となっていました。
- ピッキング作業効率の限界: 既存のレイアウトでは、作業員が広範囲を移動し、必要な商品を探索・ピッキングする必要がありました。手作業と台車による搬送が主であったため、移動時間や探索時間が作業時間の多くを占め、生産性が頭打ちになっていました。
- 多品種少量オーダーへの対応困難: 近年増加傾向にある多品種少量のオーダーに対し、従来のピッキング方式では効率的に対応することが難しくなっていました。
- 既存施設の構造的制約: 狭い通路や入り組んだレイアウトが、効率的な庫内作業や動線設計を妨げていました。
- ベテラン作業員への負荷集中: 複雑な配置や商品知識が必要なため、経験豊富なベテラン作業員に負荷が集中し、作業の属人化が進んでいました。
これらの課題は、物流コストの上昇や出荷キャパシティの限界に繋がり、事業拡大のボトルネックとなる懸念が生じていました。
導入したAMRとシステム
A社が導入したのは、棚ごと作業ステーションへ搬送するタイプのAMR(Goods-to-Person型)です。特に、既存の狭い通路幅でも安全かつ効率的に走行できる、小回りの利くモデルが選定されました。
このAMRシステムは、A社の既存WMS(倉庫管理システム)と連携しました。WMSから送られてくるオーダー情報に基づき、AMRフリート管理システムが必要な商品を格納した棚を認識し、最適なルートで複数のAMRを作業員が待機するピッキングステーションへ搬送します。ピッキングステーションでは、ディスプレイやPut-to-Lightなどの指示器が表示され、作業員は指定された商品を棚から取り出すだけで済むようになります。
このシステムにより、作業員が広大な庫内を移動する必要がなくなり、商品の探索時間もゼロになりました。技術的な詳細よりも、この「人が商品のところへ行く」から「商品が人のところへ来る」という発想の転換こそが、A社の課題解決の鍵となりました。
導入プロセスと期間
AMR導入のプロセスは、以下のステップで進められました。
- 現状分析と要件定義: 既存物流センターの物理的制約(通路幅、床面の状態、レイアウトなど)を詳細に調査・評価し、AMRに求める機能や性能を定義しました。
- ベンダー選定とPOC実施: 複数のAMRベンダーから提案を受け、A社の環境に適したAMRを選定しました。導入リスクを抑えるため、一部のエリアで3ヶ月間のPOC(概念実証)を実施し、実環境での性能や効果を確認しました。
- システム設計と連携開発: POCの結果を踏まえ、本格導入エリアのレイアウト設計を行い、AMRフリート管理システムと既存WMSとの連携インターフェースを開発しました。既存WMSの改修を最小限に抑えるため、連携用のミドルウェアが活用されました。
- 導入、テスト、トレーニング: AMR本体、関連機器の設置、システム連携テストを実施。現場作業員への操作トレーニングと、新しい作業フローに関する教育を行いました。
- 段階的な稼働開始と最適化: 特定のエリアからAMRによる運用を開始し、データの蓄積と共にシステムのパラメータ調整や運用フローの改善を継続的に実施しました。
計画開始から本格稼働まで、全体で約12ヶ月の期間を要しましたが、POCでリスクを検証できたことがその後のスムーズな導入に繋がりました。
導入効果
AMR導入により、A社は以下のような具体的な成果を獲得しました。
- ピッキング効率35%向上: AMRが棚を作業ステーションへ搬送することで、作業員の移動時間がほぼゼロになり、単位時間あたりのピッキング処理量が大幅に増加しました。
- 必要人員数25%削減: ピッキング作業に必要な人員数を削減でき、人手不足の緩和と人件費の最適化に貢献しました。これは、ピーク時においても最小限の追加人員で対応可能になったことを意味します。
- 投資回収期間(ROI)約3.5年: 人件費削減効果と、生産性向上による出荷キャパシティ増加に伴う収益貢献を加味した結果、比較的短期間での投資回収が見込まれています。
- 作業員の負担軽減と定着率向上: 長距離移動や重量物搬送の負担が大幅に軽減され、作業環境が改善されました。これにより、作業員のモチベーション向上と定着率向上に繋がっています。
- 新規作業員の早期戦力化: ピッキング作業が、ステーションでの指示に従う簡単な作業になったため、新規に採用した人材でも短期間で正確に作業できるようになり、教育コストが削減されました。
- 保管効率の維持・向上: 狭い通路はAMR専用とすることで、人が通行する必要がなくなり、棚間の通路幅を最小限に抑えることが可能となりました。これにより、既存施設でも保管スペースを最大化し、保管効率を維持・向上させています。
これらの成果は、単なるコスト削減に留まらず、変化する市場環境(多品種少量化、人手不足)への対応力を高め、企業の持続的な成長を支える基盤強化に繋がっています。
導入における課題と解決策
導入過程では、いくつかの課題も発生しましたが、適切な対策により克服されました。
- 既存施設の制約: 古い施設特有の床面の凹凸や傾斜、想定外の障害物などがAMRの走行に影響を与える可能性がありました。→ 導入前の詳細な現場調査を徹底し、AMRベンダーと密に連携して走行ルートやマップ作成に反映させました。必要最小限の床面補修や障害物撤去も実施しました。
- WMSとの連携: A社の既存WMSはカスタマイズが多く、AMRシステムとの標準的な連携が難しい側面がありました。→ WMSの大規模改修を避け、AMRフリート管理システムとの間に連携用のミドルウェアを開発・導入することで、データ連携を円滑化しました。
- 現場作業員の理解と協力: 新しい技術や作業フローへの戸惑い、従来のやり方からの変化に対する抵抗感が見られました。→ POC段階から現場責任者や主要な作業員を巻き込み、AMR導入の目的(負担軽減、安全向上など)やメリットを丁寧に説明しました。導入後も手厚いトレーニングと、疑問点や改善要望を吸い上げる仕組みを設け、現場主導での改善活動を促進しました。
成功の要因・ポイント
A社のAMR導入が成功に至った主な要因は以下の通りです。
- 既存環境への深い理解と適したAMR選定: 狭小な通路や複雑な構造といった自社の物理的制約を正しく把握し、その環境下で最大限のパフォーマンスを発揮できるAMRを選定できたことが成功の基盤となりました。
- 段階的な導入アプローチ: 全面的な置き換えではなく、特定のエリアでのPOCから開始し、リスクを抑えながら効果を検証し、確実な導入計画を立てたことが、スムーズな移行を可能にしました。
- 既存システムとの連携を柔軟に設計: 既存WMSの改修負担を最小限に抑えつつ、必要なデータ連携を実現するためのシステム設計が功を奏しました。
- 現場との協働と丁寧なコミュニケーション: 新しい技術導入には現場の協力が不可欠です。早い段階から現場の意見を取り入れ、不安を解消し、共に新しい物流システムを構築していく姿勢が成功に繋がりました。
- 経営層の明確なビジョンと意思決定: 人手不足対策や生産性向上を経営課題として捉え、AMR導入を戦略的な投資として位置づけ、必要なリソースを投下するという経営層の強い意志が、プロジェクトを推進する原動力となりました。
今後の展望
AMR導入により物流センターの効率化と省人化に成功したA社は、今後もこの成功体験を基に物流戦略を進化させていく計画です。
まず、AMRの導入エリアを段階的に拡大し、将来的には他の拠点への展開も視野に入れています。また、現在はピッキング業務への適用が中心ですが、入荷時の棚への格納や、棚卸し作業へのAMR活用も検討を進めています。
さらに、AMRフリート管理システムから得られる詳細な稼働データや生産性データを分析し、WMSや基幹システムとの連携を強化することで、物流プロセス全体の可視化と最適化を目指します。これにより、変化する市場や顧客ニーズに対し、より迅速かつ柔軟に対応できる物流体制を構築していくことでしょう。
A社の事例は、既存の物理的制約がある環境においても、適切なAMR選定と周到な導入計画、そして現場との協力を通じて、物流の効率化と競争力強化を実現できることを示しています。AMR導入をご検討されている企業の皆様にとって、示唆に富む事例となれば幸いです。