【成功事例】建材メーカー製品倉庫、高層AMR導入で保管効率20%向上と作業安全性向上を実現
導入企業の概要
本事例は、住宅用および非住宅用建材を製造・販売する国内大手メーカーA社におけるAMR導入事例です。A社は全国に複数の製造拠点と物流拠点を持ち、完成した製品をパレット単位で保管・出荷しています。製品ラインナップは多岐にわたり、多品種のパレット製品が高層ラック式倉庫に保管されています。
AMR導入前の課題
A社の製品倉庫では、高層ラックへのパレット入出庫作業にフォークリフトを使用しておりました。この作業には以下のような課題が顕在化していました。
- 作業員の安全リスク: 高所でのフォークリフト操作は常に転倒や落下のリスクを伴い、安全確保が最重要課題でした。
- 熟練作業員への依存: 高層ラックでの正確かつ効率的な作業には経験と熟練が必要であり、特定の作業員に負荷が集中しがちでした。人手不足が進行する中で、この依存は将来的なリスクとなっていました。
- 作業効率の限界: 人手によるフォークリフト操作には物理的な限界があり、入出庫処理能力がピーク時の出荷量に追いつかないことがありました。
- 保管効率の追求: 既存のレイアウトや設備では、さらなる保管キャパシティの拡大が困難であり、倉庫スペースを最大限に活用できていませんでした。
- 将来的な事業拡大への対応: 今後予測される出荷量の増加に対し、現在の物流体制では対応しきれない懸念がありました。
これらの課題は、労働コストの増加や事業拡大の制約となり、経営層として抜本的な対策が求められていました。
導入したAMRとシステム
A社が導入したのは、高揚程に対応したパレット搬送型AMRです。このAMRは、最大10メートル以上の高さにあるパレットを自動で入出庫することが可能です。導入にあたり、既存の倉庫管理システム(WMS)とAMR制御システムを連携させました。
システム連携のポイントは以下の通りです。
- WMSとのシームレスな連携: 既存のWMSからAMR制御システムへ、入出庫指示が自動的に送信される仕組みを構築しました。これにより、手動での指示出しやデータ入力の手間を排除しました。
- 高精度な位置認識: AMRはLiDARやカメラ、SLAM技術を組み合わせることで、倉庫内の正確な自己位置を把握し、複雑なレイアウト内でも迷うことなく走行・停止します。
- 障害物回避機能: 走行経路上の人や障害物を検知し、自動的に減速または停止することで、安全な運用を実現します。
- 自動充電機能: バッテリー残量が少なくなると、自動で充電ステーションに戻り充電を行います。
技術的な詳細よりも、これらのシステムが「高所作業の自動化」「WMSとの連携による作業指示の効率化」「安全性の確保」といった課題解決に直結する機能として導入されたことが重要でした。
導入プロセスと期間
AMR導入プロジェクトは、以下のステップで進められました。
- 現状分析と要件定義: 既存の倉庫運用、課題、求める効果(安全性向上、効率向上、保管効率)を詳細に分析し、AMRに求める具体的な機能や性能を定義しました。
- ベンダー選定と実機評価: 複数のAMRベンダーから提案を受け、実際の倉庫環境に近い条件でのデモやシミュレーションを実施し、性能、既存システムとの連携性、サポート体制などを評価しました。特に高揚程での安定性や安全性に重点を置きました。
- システム設計とカスタマイズ: 既存WMSとAMR制御システム間のデータ連携仕様を詳細に設計し、必要に応じたカスタマイズを行いました。
- 段階的な導入とテスト: まず特定のエリアに少数のAMRを導入し、システム連携、走行テスト、入出庫テストを繰り返しました。現場作業員への操作研修もこの段階で実施しました。
- 本格稼働と拡張: 限定エリアでの安定稼働を確認後、対象エリアを拡大し、AMRの台数を増やして本格稼働を開始しました。
計画段階から本格稼働まで、約10ヶ月の期間を要しました。既存システムとの連携検証に最も時間を要しましたが、慎重に進めたことで安定したシステム運用に繋がりました。
導入効果
AMR導入により、A社の製品倉庫では以下のような具体的な成果が得られました。
- 保管効率の向上: 高層ラックの上部など、これまで安全性や作業効率の観点から十分に活用できていなかったスペースへのパレット保管が可能となり、倉庫全体の保管キャパシティが約20%向上しました。これにより、外部倉庫への依存度を低減できました。
- 作業安全性の飛躍的向上: 高所でのパレット入出庫作業の大部分をAMRが担うことで、作業員が高所作業を行う頻度が大幅に減少しました。これにより、転倒・落下などの事故リスクが低減され、安全な作業環境が実現しました。
- 入出庫効率の改善: WMSからの指示に基づきAMRが自動で最適経路を走行しパレットを入出庫するため、単位時間あたりの処理能力が約15%向上しました。特に夜間や休日などの無人・少人時間帯での稼働により、倉庫全体の稼働率が向上しました。
- 熟練作業員への負荷軽減: 高所作業から解放された熟練作業員は、AMRが対応できない特殊な作業や、庫内全体の最適化、他の作業員の指導などに注力できるようになりました。
- 投資対効果(ROI): 保管コスト削減、作業効率向上、労災リスク低減などの効果を総合的に評価した結果、約3.5年での投資回収が見込まれています。
導入における課題と解決策
導入プロセスにおいては、いくつかの課題に直面しました。
- 既存WMSとの連携: 既存のWMSはAMR連携を想定していなかったため、データ連携の仕様調整やインターフェース開発に時間を要しました。
- 解決策: ベンダー間の密な連携と、詳細な仕様確認、繰り返しテストを実施しました。
- 倉庫レイアウトの調整: AMRの安全かつ効率的な走行のために、一部の通路幅の見直しや、安全エリアの区画分けが必要となりました。
- 解決策: 事前にAMRの走行シミュレーションを行い、必要なレイアウト変更を最小限に抑えました。
- 現場作業員の理解と習熟: 新しいシステムに対する現場の抵抗や、AMRとの協働ルールの習熟が必要でした。
- 解決策: 導入前の丁寧な説明会、段階的な導入による慣らし期間の確保、AMR稼働中のサポート体制を強化しました。
成功の要因・ポイント
本事例が成功に至った主な要因は以下の通りです。
- 明確な課題設定: 「高所作業の安全性向上」という、経営層と現場双方にとって共通認識である明確な課題を解決目標としたこと。
- 課題に適合したAMR選定: 高層ラックという特殊な環境に対応できる、適切な高揚程パレット搬送AMRを選定したこと。
- 既存システムとの柔軟な連携: 既存の物流システム(WMS)を活かしつつAMRシステムと連携させる設計としたことで、大規模なシステム刷新を避け、導入コストとリスクを抑制しました。
- 経営層のコミットメント: 安全性向上と将来のキャパシティ確保という観点から、経営層が明確な導入意思を持ち、プロジェクトを推進したこと。
- 現場部門との連携: 導入プロセスにおいて現場部門と密に連携し、意見を反映させながら進めたことで、スムーズな導入と運用を実現しました。
今後の展望
A社では、AMR導入によって得られた成果を基に、物流戦略のさらなる高度化を目指しています。
- 他拠点への横展開: 今回の成功事例をモデルケースとして、全国の他の物流拠点へのAMR導入を検討しています。特に同様の高層ラック倉庫を持つ拠点から優先的に導入を進める計画です。
- AMR活用の拡大: パレット搬送だけでなく、将来的に棚卸し作業の効率化など、AMRの活用範囲を拡大していく可能性を探っています。
- データ活用による最適化: AMRの稼働データやWMSのデータを詳細に分析し、より効率的な倉庫レイアウトや作業指示、在庫配置の最適化に繋げていく方針です。
AMRは単なる自動搬送装置ではなく、安全性向上、保管効率向上、そして将来的な事業拡大を支える重要な物流インフラとして位置づけられており、A社の競争力強化に貢献しています。