【成功事例】フローズン倉庫におけるAMR導入が過酷な作業環境下の省人化と生産性向上を両立
導入企業の概要
今回ご紹介する成功事例は、冷凍食品およびチルド食品の卸売業を展開する中堅企業、株式会社コールドチェーンロジスティクス(仮称)様です。同社は全国に物流拠点を展開し、特に-20℃以下のフローズン帯と0℃〜5℃のチルド帯を併せ持つ大型物流センターを主力としています。ここでは、年間を通じて安定した食品供給を担う上で、過酷な低温環境下での作業効率化と人手不足への対応が喫緊の課題となっていました。
AMR導入前の課題
株式会社コールドチェーンロジスティクス様では、AMR導入以前、以下のような複数の深刻な課題に直面していました。
- 慢性的な人手不足: -20℃以下という極めて低い温度環境での作業は、作業員にとって大きな負担となります。新規採用が困難であり、既存の熟練作業員に負担が集中し、離職率も課題となっていました。特に夜間や早朝のピッキング作業員確保は常に悩みの種でした。
- 作業効率の限界: 低温環境下では、防寒具の着用や定期的な暖機休憩が必要となり、人間の作業効率には物理的な限界がありました。ピッキング動線や作業手順の改善にも限界が見えており、これ以上の生産性向上は難しい状況でした。
- 高い運用コスト: 低温環境での作業には、特別な手当や高性能な防寒具が必要であり、人件費が高騰していました。また、空調コストも無視できない水準でした。
- 事業拡大への対応力不足: 近年、冷凍食品市場の拡大に伴い、取扱量とSKU(在庫管理単位)が増加していましたが、既存の作業体制では需要増に対応しきれないリスクが増大していました。
- 厳格な管理体制: 食品を取り扱うため、ロット管理、賞味期限管理、そして何よりも温度管理の厳格な遵守が求められます。手作業による管理にはヒューマンエラーのリスクが伴いました。
これらの課題を解決し、持続可能な物流体制を構築するために、同社は新たな技術、特に自動化ソリューションの導入を検討し始めました。
導入したAMRとシステム
同社が導入したのは、低温環境(-25℃まで対応)に特化した棚搬送型AMRと、既存のWMS(Warehouse Management System)を連携させるためのAMR制御システムです。
- 低温対応型棚搬送AMR: このAMRは、バッテリーや電子部品が低温環境下でも安定して稼働するための特別な設計が施されています。WMSからの指示に基づき、指定された商品棚を自律的にピッキングステーションまで搬送する役割を担います。これにより、作業員が広大なフローズン倉庫内を歩き回る必要がなくなりました。
- AMR制御システム: 導入したAMR群を統括管理するシステムです。WMSとリアルタイムで連携し、入荷、保管、ピッキング、出荷といった各プロセスにおけるAMRの最適な稼働計画を立案・実行します。複数のAMRが効率的に動き、渋滞を回避するための高度なアルゴリズムが組み込まれています。
- WMS連携: 既存のWMSを改修し、AMR制御システムとのAPI連携を強化しました。これにより、在庫情報、ロケーション情報、ピッキング指示、ロット情報などがAMRシステムとシームレスに連携され、正確な情報に基づいた自動搬送が可能となりました。
技術的な詳細よりも、これらのシステム連携によって「作業員が低温環境に滞在する時間を最小限にする」「WMSの正確な情報に基づいてAMRが動くことでピッキング精度を高める」「複数AMRの協調により全体の処理能力を向上させる」といった、課題解決に直結する機能が成功の鍵となりました。
導入プロセスと期間
AMR導入プロジェクトは、以下のプロセスを経て約1年で本格稼働に至りました。
- 要件定義・ベンダー選定(3ヶ月): 低温対応という特殊要件を満たすAMRベンダーの調査・選定から開始。複数ベンダーの低温環境での実証実験データや、既存WMSとの連携実績などを慎重に評価しました。
- システム設計・WMS改修(4ヶ月): 選定したベンダーと協力し、既存WMSとAMR制御システムの連携設計、AMRの最適な稼働エリア設計、ピッキングステーションのレイアウト設計などを実施。WMSの必要な改修を行いました。
- テスト導入・実証実験(3ヶ月): 特定の小エリアに少数のAMRを先行導入し、実際の低温環境下での稼働安定性、バッテリー性能、WMS連携の正確性、作業員との連携などを徹底的に検証しました。ここで得られたデータに基づき、システムや運用フローの調整を行いました。
- 本格導入・エリア拡張(2ヶ月): テスト結果を踏まえ、対象エリアとAMR台数を段階的に拡張。並行して、AMRオペレーターや保守担当者への研修を実施しました。
- 全面稼働・効果検証: 想定されたエリアでのAMR運用を開始。継続的に稼働データや効果データを収集・分析し、さらなる改善点や拡張計画の検討を行っています。
特に低温環境での実証実験は入念に行われ、機器の耐久性や充電効率に関する懸念点を事前に洗い出し、対策を講じることができました。
導入効果
AMR導入により、株式会社コールドチェーンロジスティクス様は計画を上回る成果を達成しました。
- 劇的な省人化: フローズンエリアの夜間・早朝ピッキング作業における人員配置を、導入前と比較して約50%削減することに成功しました。これにより、慢性的な人手不足の課題が大幅に緩和されました。
- 生産性の向上: 作業員が低温環境を移動する時間が激減したため、1人あたりのピッキング処理能力が約40%向上しました。全体の出荷能力も底上げされています。
- 運用コストの削減: 省人化による人件費(特に低温手当)の削減、およびピッキング効率向上による残業時間の削減などにより、物流センター全体の運用コストを約15%削減することが見込まれています。投資に対するROIは約3.5年で達成される見込みです。
- エラー率の低減: WMSとAMR制御システムの連携による正確なロケーション指示と搬送により、ピッキングエラー率が導入前の約60%低減しました。これにより、誤出荷に伴う返品コストや顧客からのクレームが大幅に減少しました。
- 作業環境の改善: 作業員が低温環境に滞在する時間が最小限になったことで、肉体的負担や健康リスクが軽減されました。これにより、作業員のモチベーション向上や定着率の改善にも繋がっています。
- キャパシティ拡大への対応: 生産性向上により、既存の設備と人員で、増加する取扱量に対応できる基盤が構築されました。
これらの具体的な数値成果は、AMR導入が単なる自動化ではなく、経営課題の解決に直結する戦略的な投資であったことを明確に示しています。
導入における課題と解決策
特殊な環境下での導入であったため、いくつかの課題が発生しました。
- 低温環境特有の機器トラブル: テスト段階で、想定以上の結露やバッテリー性能の低下が見られました。これに対し、ベンダーと連携し、機器本体への追加防湿対策、充電ステーションの温度・湿度管理強化、および予備バッテリーの十分な確保といった対策を講じました。
- 既存WMSとの連携の複雑さ: 長年使用してきたWMSとの連携において、一部データの形式や連携タイミングの調整に時間を要しました。これは、専門知識を持つシステムインテグレーターの協力を得ながら、入念なテストと改修を繰り返すことで乗り越えました。
- 現場作業員の慣れと抵抗感: 新しいシステムやAMRの導入に対し、一部の作業員から戸惑いや抵抗の声がありました。これに対しては、導入目的やAMRによるメリット(負担軽減、安全性向上)を丁寧に説明する機会を設け、AMRの実演や操作研修を繰り返し実施することで、理解と協力を得ることに成功しました。
成功の要因・ポイント
この事例が成功した主な要因は以下の通りです。
- 低温対応AMRの適切な選定: 過酷な環境での安定稼働は必須条件でした。複数のベンダーを比較検討し、実績のある低温対応AMRを選定したことが成功の基盤となりました。
- WMSとのシームレスな連携: AMR単体ではなく、既存の基幹システムであるWMSと連携させることで、データに基づいた正確かつ効率的な運用が可能となりました。システム連携は、専門知識を持つパートナー企業との密な連携が鍵でした。
- 段階的な導入アプローチ: 全エリアでの一斉導入ではなく、特定のエリアでテスト導入・検証を行い、課題を克服してから段階的に拡張したことで、リスクを最小限に抑えることができました。
- 経営層の強力なリーダーシップと現場との連携: 物流部門だけでなく、経営層が明確なビジョンを示し、投資の意思決定を迅速に行ったことに加え、現場の意見を導入プロセスに積極的に反映させたことが、スムーズな導入と定着に繋がりました。
- 専門知識を持つベンダーとの連携: 低温物流およびAMRに関する専門知識を持つベンダーやシステムインテグレーターとの緊密な連携が、技術的な課題解決や最適なシステム構築に不可欠でした。
今後の展望
AMR導入により物流体制の革新に成功した株式会社コールドチェーンロジスティクス様は、今後さらなるAMR活用の拡大を計画しています。
現在AMRを導入しているフローズンエリアに加え、隣接するチルドエリアへのAMR導入も検討を進めています。また、入庫時の検品・格納作業や、出荷時の検品・積み付け支援など、ピッキング以外の倉庫作業へのAMR活用も視野に入れています。将来的には、AMRから収集される膨大な稼働データやピッキングデータを分析し、更なる効率化やコスト削減、需要予測に基づいた最適な在庫配置などを実現するためのデータ活用基盤の構築も目指しています。
AMRを核とした自動化・省力化をさらに推進することで、過酷な環境下での作業負担を軽減しつつ、変化する市場ニーズに迅速に対応できる、より強くしなやかな物流ネットワークの構築を目指しています。この事例は、特殊な環境であっても適切なAMRとシステム連携、そして周到な計画と実行により、大きな成果を上げられることを証明しています。