【成功事例】重量物・パレット搬送でAMR導入、作業安全性の向上と搬送効率化を両立 - 製造業・卸売業向け
物流業界では、労働力不足が深刻化する中で、特に重量物の搬送作業における課題が多く報告されています。作業員の負担増や、それに伴う労働災害のリスク、さらには熟練した作業員の確保・育成コストも無視できません。こうした状況に対し、AMR(自律走行搬送ロボット)の導入が有効な解決策となり得ることを示す事例をご紹介します。
導入企業の概要
今回ご紹介するのは、産業機械部品の専門商社A社様の物流部門における事例です。A社様は、全国に複数の物流拠点を持ち、多様なサイズの産業機械部品を取り扱っています。中でも特定の物流センターでは、数百kgから1tクラスの大型・重量部品の入出荷および保管エリア間のパレット搬送作業が多く発生していました。これらの重量物は主にパレット単位で取り扱われます。
AMR導入前の課題
A社様がAMR導入を検討された主な課題は以下の通りです。
- 作業員の負担と安全性: 重量物の搬送は身体的な負担が大きく、特にパレットでの移動はフォークリフトに頼る部分が多くありました。フォークリフト作業には常に事故のリスクが伴い、作業員の安全確保が大きな課題でした。
- フォークリフト依存と効率性の限界: 重量物搬送の大部分をフォークリフトに依存していましたが、フォークリフト免許保有者の確保や、特定の時間帯における搬送ニーズの集中による非効率が発生していました。定型的なパレット搬送に人員と時間的リソースが割かれ、より付加価値の高い作業に集中できない状況でした。
- 将来的な労働力不足への懸念: 作業員の高齢化が進む中で、重量物を取り扱う作業の担い手不足が予測され、将来的な物流キャパシティ維持への懸念がありました。
導入したAMRとシステム
A社様が導入されたのは、最大積載量1.5tに対応可能な牽引型AMRです。このAMRは、既存のパレットや台車を牽引することで、重量物の搬送を自動化します。
システム構成としては、既存のWMS(倉庫管理システム)とAMR管理システムを連携させました。WMSからの搬送指示(例: 入荷エリアから指定保管棚への移動、保管棚から出荷バースへの移動)がAMR管理システムに送信され、AMRが最適なルートで自動搬送を実行します。特に重量物搬送における安全性を最優先するため、高性能な障害物検知センサーと、人やフォークリフトの接近を検知した場合の緊急停止機能が強化されたモデルを選定しました。
導入プロセスと期間
AMR導入は、約9ヶ月間のプロセスを経て完了しました。初期の数ヶ月で複数のベンダーから情報収集、現場でのトライアルを実施し、最適なAMR機種とシステム構成を検討しました。その後、約6ヶ月をかけてシステム設計、WMSとの連携開発、AMRの搬送ルート設定、現場作業員へのトレーニング、安全ルールの策定を行いました。特に、既存のフォークリフトや人手による作業との協調をスムーズに行うための導線設計とシステム連携には時間をかけました。最初は特定の搬送ルートでのみ運用を開始し、段階的に対象範囲を拡大していく形で進められました。
導入効果
AMR導入により、A社様は以下の具体的な効果を実感されています。
- 作業安全性の飛躍的な向上: 重量物の定型搬送作業から作業員が解放されたことで、パレット落下やフォークリフト接触といった事故リスクが大幅に低減されました。特に、最もリスクが高いとされていた特定の搬送ルートにおける危険作業がゼロになり、労働災害の発生件数が減少傾向を示しています。
- 搬送効率の向上と生産性向上: 定型的なパレット搬送作業をAMRが担うことで、搬送タスク全体の処理能力が約25%向上しました。これにより、これまで搬送に費やしていた作業時間を、検品、仕分け、梱包といった他の高付加価値作業に再配置することが可能となり、物流センター全体の生産性向上に繋がっています。
- 作業員負担の軽減と労働環境改善: 重量物の手動搬送やフォークリフト操作の頻度が減り、作業員の身体的負担が軽減されました。これは作業員の定着率向上や、新たな人材の確保においてもプラスの効果をもたらしています。
- 将来の成長基盤構築: 人手不足が予測される中でも、搬送キャパシティを自動化で確保できたことは、将来的な取扱量増加に対応できる基盤となります。
- 投資対効果 (ROI): 人件費の上昇抑制効果や生産性向上によるコスト削減効果、さらには労働災害リスク低減による間接的なコスト削減効果を総合的に評価した結果、約4.5年での投資回収が見込まれています。
導入における課題と解決策
導入においては、主に以下の課題がありました。
- 現場の受け入れ体制: AMR導入による作業内容の変化や安全性への懸念が一部の作業員からありました。これに対しては、導入計画の初期段階から現場説明会を繰り返し実施し、AMRが「脅威」ではなく「協力者」であることを丁寧に伝えました。また、トライアル運用を通じてAMRの安全性と有効性を実際に体験してもらう機会を設けることで、理解と協力を得ることができました。
- 既存設備との連携: WMSとの連携において、搬送タスクの自動生成やステータス連携で一部調整が必要でした。これは、ベンダーとの密なコミュニケーションと、既存システムの特性を十分に理解した上でのカスタマイズによって解決しました。
- 想定外の状況への対応: 予期せぬ場所に障害物があったり、フォークリフトがAMRのルートに進入したりする状況への対応ルール作りが課題でした。AMRの管理システムで手動での遠隔操作やルート変更を可能にしつつ、現場ルールの徹底と作業員への周知を繰り返し行うことで対応しました。
成功の要因・ポイント
A社様におけるAMR導入成功の主な要因は以下の通りです。
- 経営層の強い意志と投資判断: 単なる効率化だけでなく、作業員の安全確保という経営課題解決のために積極的に投資を決定したことが、導入プロジェクトを推進する原動力となりました。
- 現場との連携と丁寧な合意形成: 現場作業員の意見を十分に聞き取り、不安を解消し、導入メリットを共有することで、プロジェクトへの協力体制を構築できました。
- 目的適合性の高いAMR選定: 重量物・パレット搬送という特定の課題に特化し、必要な積載量と安全機能を備えたAMRを選定したことが、導入効果を最大化しました。
- 段階的な導入計画: 一気に全範囲を自動化するのではなく、特定のルートから開始し、効果検証と課題対応を進めながら対象を広げたことで、リスクを抑えつつスムーズな移行を実現しました。
- 安全対策への徹底した取り組み: AMR自体の安全機能に加え、既存の作業との協調ルールや導線設計、緊急時の対応策を具体的に定め、現場に浸透させたことが、安心して運用できる環境を整備しました。
今後の展望
A社様では、今回のAMR導入で得られた知見を活かし、今後も物流拠点の自動化・省力化を推進していく計画です。特に、今回導入した重量物対応AMRの対象ルートを拡大するとともに、他の拠点への展開も視野に入れています。また、入荷時の検品・格納作業や、出荷時の梱包エリアへの搬送など、他のプロセスへのAMR活用や、他の種類のAMR導入も検討されており、物流センター全体のさらなる効率化と競争力強化を目指されています。AMRから収集される搬送データの分析を通じて、より効率的なレイアウトや搬送計画を策定するなど、データに基づいた運用改善も進められています。