【成功事例】3PL事業者がAMR導入で複数顧客向け倉庫の保管効率とBCP対応力を向上
導入企業の概要
本記事でご紹介するのは、全国に複数の物流拠点を持ち、多様な業種の顧客に対して包括的な物流サービスを提供する3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者のロジリンクス株式会社(仮称)様の事例です。同社は、アパレル、消費財、部品など、在庫特性や出荷頻度が大きく異なる複数の顧客製品を一つの拠点で扱うケースが多く、特に保管効率と柔軟なリソース配分が課題となっていました。今回のAMR導入は、特に中小規模の複数拠点における、多様な顧客ニーズへの対応力強化と、事業継続計画(BCP)への対応力向上を目的として実施されました。
AMR導入前の課題
ロジリンクス株式会社様では、AMR導入以前、以下のような複数の課題を抱えていました。
- 人手不足と採用・教育コストの増大: 物流業界全体の課題に加え、複数拠点・多様な顧客対応による複雑な作業プロセスが、新たな人材の確保と育成を困難にしていました。特に繁忙期の波動対応に必要な人員確保は大きな負担でした。
- 保管効率の限界と作業負荷: 多様な在庫特性に対応するため、保管レイアウトが非効率になりがちな上、特に高密度保管エリアにおける入出庫作業は、作業員への身体的・精神的負荷が高く、作業効率も伸び悩んでいました。
- 波動対応力の不足: 顧客ごとの物量や特性の急激な変動に対し、柔軟かつ迅速に人員や設備を再配置することが難しく、サービス品質の維持に課題がありました。
- BCPへの不安: 自然災害や感染症拡大などにより、特定の拠点で人員確保が困難になった場合の事業継続性に懸念があり、代替拠点での早期復旧・運営体制構築に備える必要性を感じていました。
- 競争力の強化: 効率化によるコスト削減だけでなく、付加価値の高いサービスを提供することで、他社との差別化を図りたいと考えていました。
導入したAMRとシステム
これらの課題解決のため、ロジリンクス株式会社様が導入したのは、主に棚搬送型のAMR(Goods To Person: GTP)です。特に、同社の高密度保管エリアの狭通路での運用を考慮し、機動性の高い小型モデルを選定しました。
導入したAMRは、既存のWMS(倉庫管理システム)と連携する形で稼働しています。WMSからのピッキング指示に基づき、AMRが該当する在庫棚を作業ステーションまで自動で搬送します。これにより、作業員は広大な倉庫内を移動することなく、定点でピッキング作業に集中できるようになりました。
システム面では、AMR群を効率的に管理・制御するFMS(Fleet Management System)が導入されました。このFMSは複数拠点のAMRを一元管理できる機能を持ち、拠点ごとの物量やAMRの稼働状況に応じて、最適なタスク割り当てや移動経路計画をリアルタイムで行います。また、将来的には顧客データと連携した簡易的な需要予測システムとも連携させ、事前に最適な棚配置を行うことなども視野に入れています。
導入プロセスと期間
AMR導入は、特定のモデル拠点でのPoC(概念実証)から開始されました。約3ヶ月間のPoCで、実際の運用環境下でのAMRの性能、既存システムとの連携、現場作業への影響などを詳細に検証しました。
PoCでの成功を確認後、本格的な導入フェーズに移行しました。まずは、保管効率と人手不足の課題が特に顕著であった複数の中小規模拠点に順次展開しました。導入プロセスは以下の通りです。
- 詳細設計: PoCの結果を踏まえ、拠点ごとのレイアウト、WMSとの連携方法、作業フローの設計。
- システム開発・連携: WMSとAMR制御システム(FMS)間のAPI連携開発。
- インフラ整備: AMR走行エリアの環境整備、Wi-Fi環境強化、充電ステーション設置。
- AMR搬入・セットアップ: AMR本体および関連機器の設置、システム設定。
- 現場トレーニング: 作業員へのAMR操作、連携システムの使用方法、安全教育。
- 段階的な運用開始: 特定の作業エリアからAMR運用を開始し、徐々に範囲を拡大。
PoC開始から複数拠点での本格稼働まで、全体で約1年の期間を要しました。特にWMSとの連携開発に多くの時間を要しましたが、段階的な導入により、リスクを抑えながら着実に進めることができました。
導入効果
AMR導入により、ロジリンクス株式会社様では以下のような具体的な効果が得られました。
- 保管効率の向上: 高密度保管に適した棚搬送型AMRの導入と最適な棚配置により、特に課題であった高密度保管エリアの活用率が約15%向上しました。
- ピッキング効率の向上: 作業員の移動時間が大幅に削減され、定点での作業に集中できるようになった結果、ピッキング作業の生産性が約20%向上しました。これにより、必要な作業人員数を最適化し、特定作業における人員を約20%削減することに成功しました。
- 人手不足の緩和とコスト削減: ピッキング作業に必要な人員削減に加え、作業負荷の軽減は新たな人材の定着にも繋がり、採用・教育コストの削減に貢献しました。全体的なオペレーションコストにおいて、年間約〇〇万円の削減が見込まれています(具体的な金額は非公開)。
- BCP対応力の強化: 複数拠点で共通のAMRシステムを導入したことで、万が一の被災時や人員不足時には、比較的軽微な他の拠点からAMRを融通したり、標準化されたオペレーションを代替拠点で早期に立ち上げたりする計画が可能となり、事業継続性が大幅に向上しました。
- サービスレベルの向上: 作業効率向上による出荷リードタイムの短縮や、システムによる正確なピッキング指示による誤出荷率の低減(約50%削減)により、顧客満足度が向上しました。
- 投資対効果 (ROI): 上記のコスト削減効果や生産性向上による利益貢献を総合的に評価した結果、約3年での投資回収が見込まれています。
導入における課題と解決策
導入プロセスにおいては、いくつかの課題に直面しましたが、適切な対策を講じることで乗り越えました。
- 既存WMSとの連携課題: 最も技術的なハードルが高かったのは、長年利用している既存WMSとAMR制御システムとのスムーズな連携でした。WMSのカスタマイズ性の限界や、データフォーマットの違いなどが課題となりました。
- 解決策: WMSベンダーとAMRベンダー、そしてロジリンクス株式会社様のIT部門が密に連携し、複数回の打ち合わせとテストを重ねながら、段階的に連携機能の実装を進めました。また、一部の連携はAPIではなく、ファイル連携などで代替することで、開発期間の短縮を図りました。
- 現場作業員の不安: 新しいテクノロジーの導入や作業内容の変化に対し、現場作業員から不安の声が上がりました。
- 解決策: 導入プロジェクトの初期段階から、現場責任者や作業リーダーを巻き込み、AMR導入の目的、メリット、具体的な作業手順の変化について丁寧な説明会を繰り返し実施しました。また、PoC期間中には実際にAMRに触れる機会を設け、操作性の理解や安全性の確認を促しました。導入後も、担当者への手厚いトレーニングと、AMRと協働する新しい作業フローへのスムーズな移行をサポートしました。
成功の要因・ポイント
今回のロジリンクス株式会社様におけるAMR導入成功は、以下の要因が挙げられます。
- 経営層の明確な課題認識とリーダーシップ: 人手不足、保管効率、そして特にBCP対応という経営レベルの課題解決という明確な目的意識を持ち、AMR導入に対する強力な意思決定と推進力を発揮しました。
- 現場との継続的なコミュニケーション: 導入プロジェクトの初期段階から現場の意見を吸い上げ、実際の運用を想定した設計やトレーニングを丁寧に行ったことが、現場の抵抗を軽減し、スムーズな導入に繋がりました。
- ベンダー間の密な連携: WMSベンダーとAMRベンダー間のシステム連携は、技術的な難易度が高かったものの、両社の技術担当者とロジリンクス株式会社様の担当者が連携し、課題を一つずつ解決していきました。
- 段階的な導入と継続的な改善: 一度に全拠点に導入するのではなく、PoCを経てから複数拠点に展開し、導入後も実際の稼働データに基づき、AMRの稼働設定や棚配置を継続的に改善していく姿勢が、効果の最大化に繋がりました。
今後の展望
AMR導入による成功体験を経て、ロジリンクス株式会社様は今後の物流戦略において、さらなる自動化・省力化を推進していく方針です。
今後は、今回AMRを導入した拠点での活用範囲を、ピッキング作業だけでなく、入庫時の棚への補充作業や、定期的な棚卸し、返品処理などの他の庫内作業にも拡大していくことを検討しています。
また、AMR導入拠点を他の大規模拠点や専門性の高い拠点にも広げ、全社的な物流ネットワークの最適化を目指します。AMRから収集される膨大なデータを活用し、AIによるより高度な在庫配置最適化や、AMR・人員の最適なリソース配分計画なども視野に入れています。
今回のAMR導入は、単なる作業効率化に留まらず、多様な顧客ニーズへの対応、事業継続計画(BCP)への備え、そして新たな顧客への価値提供といった、3PL事業の競争力を高める重要な一歩となりました。今後も、技術の進化を取り入れながら、変化する物流ニーズに柔軟に対応していく姿勢が、ロジリンクス株式会社様のさらなる成長を支えていくことでしょう。